10億宣言を考える際に参考となるのは2025年からスタートした「100億宣言政策」です。

まず、この政策がどのような経緯で生まれたのか、まとめます。

「100億宣言」は2023年に中小企業庁の研究会で問題提起され、2024年に政策として具体化され、2024年末の補正予算で財政措置が決まり、2025年に「100億宣言」として制度実施に入った、という流れで生まれました。

重要なのは「中小企業政策の重点を、従来の“守る”から“成長させる”方向へ転換する」という問題意識から始まっていることです。


1.全体の流れ

大きく整理すると、次のようになります。

時期段階何が起きたか
2023年問題提起・研究「100億企業」を政策目標として初めて本格的に打ち出す
2023年6月第1次提言中小企業の成長経営を促し、100億企業を創出する方向を提示
2024年3~6月政策設計100億企業を増やすための具体的政策を研究
2024年6月第2次提言経営者の成長意欲、ネットワーク、資金、人材など具体策を提示
2024年6月政府方針への格上げ「骨太の方針2024」で100億円以上を目指す中小企業への支援を明記
2024年11~12月予算化・政策決定成長加速化補助金、100億企業育成ファンド等を補正予算に計上
2025年2月制度決定「100億宣言」の制度を正式発表
2025年4月実施基盤完成100億企業成長ポータル開設
2025年5月8日実施開始100億宣言の受付開始
2025年6月公表開始第1弾311社を公表
2026年現在政策拡大・定着宣言、補助金、税制、経営者ネットワークを組み合わせた政策へ

2.出発点は「2023年の研究会」

政策の直接的な出発点として見るべきなのが、中小企業庁の「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会」です。(中小企業庁)

2023年度に研究会が開催され、2023年6月22日に中間報告書が公表されています。中小企業庁自身が後の白書で、この研究会について「100億企業への成長を目指すことの意義や重要性」を示したものと位置付けています。

2023年「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会」資料・報告書

ここで非常に重要な転換が起きています。

従来の中小企業政策は、

  • 事業継続
  • 資金繰り
  • 雇用維持
  • 事業再生
  • 生産性向上

など、どちらかというと「中小企業を守る」政策が中心でした。

これに対してこの研究会では、成長する中小企業を意図的に生み出すという政策思想が前面に出てきます。


3.なぜ「100億円」なのか

これは単なるキリの良い数字として設定されたわけではありません。

中小企業庁の分析では、売上高100億円規模になると、

  • 地域内からの仕入れが大きい
  • 一人当たり人件費が高い
  • 直接輸出額が大きい
  • 地域経済への波及効果が大きい

という特徴が確認されています。

そのため、「中小企業が100億円規模まで成長することは、個々の企業の問題ではなく、日本経済・地域経済に意味がある」というロジックが政策の根底にあります。(中小企業庁)

特に2024年3月の中小企業政策審議会関連資料では、かなり明確に、中小企業政策の重点を「守りから攻めへ」という方向に転換する必要性が示されています。(中小企業庁)

また、当時の分析では、売上高100億円以上の企業は約1.4万社、企業全体の0.4%程度であり、1~10億円から100億円超へ成長した企業は過去10~20年間で178社という非常に限られた存在でした。

政府としては100億企業は日本経済に大きな貢献をするのに、自然発生する数が少ない。ならば、成長を促す政策を意図的に作る必要がある」と考えたと思われます。


4.2024年:「研究」から「政策設計」へ

2024年度になると、研究会がもう一段進みます。2024年3月~5月に研究会を開催し、2024年6月28日に「第2次中間報告書」を公表しました。

第2次中間報告書(2024年6月)

ここでは、

  • 成長志向の経営者を増やす
  • 成長機会を発掘する
  • 経営者ネットワークをつくる
  • 成長資金を供給する
  • 人材を確保・育成する
  • 組織体制を構築する

といった、かなり具体的な政策課題に踏み込んでいます。そして、ここで現在の「100億宣言」の原型が出てきます。


5.2024年6月:「政府全体の政策」に昇格

2024年6「経済財政運営と改革の基本方針2024」、いわゆる骨太の方針2024に、売上100億円以上への成長を目指す中小企業について、関係省庁が連携してビジョンを策定し、設備投資、M&A、グループ化等を促進することが盛り込まれました。

経済財政運営と改革の基本方針2024(政府資料)


6.2024年11~12月:お金が付いて「政策」になる

次の重要な段階が令和6年度補正予算です。

2024年11月29日に補正予算案が閣議決定され、12月17日に成立しました。

ここで「売上高 100 億円を目指す成長志向の中小企業・小規模事業者の成長投資をハード・ソフトの両面で支援する」ことが示されました。(経済産業省)

100億を目指す企業に資金を供給するところまで政策化されたわけです。


7.2025年2月:「100億宣言」が正式に制度化

そして2025年2月21日。

中小企業庁・中小機構が正式に

「100億宣言を開始します」

と発表しました。(経済産業省)

ここで「100億宣言」の制度内容が固まりました。

宣言には、

  1. 企業概要
  2. 企業理念・経営者の意気込み
  3. 100億円実現の目標・課題
  4. 100億円に向けた具体的措置

などを記載します。宣言を、成長を目指す経営者自身のコミットメントとして位置付け、そのうえで、

  • 成長加速化補助金
  • 税制
  • 経営者ネットワーク
  • ロゴによる対外PR

などを組み合わせる構造になっています。(中小企業庁)


8.2025年4月:実施インフラが完成

2025年4月11日に「100億企業成長ポータル」が開設されました。

100億企業成長ポータル開設—経済産業省(2025年4月11日)

そして2025年5月8日から申請受付が開始されます。 (中小企業庁)


9.2025年6月:最初の企業を公表

2025年6月17日には、最初の「100億宣言」企業が公表されました。

6月9日時点で申請1,500件超、そのうち確認が終わった311件を第1弾として公表しています。

「100億宣言」を公表します—経済産業省(2025年6月17日)


10.そして現在:単発政策から「エコシステム」へ

2026年現在は、さらに発展しています。

中小企業庁は「100億宣言」を、

  • 成長加速化補助金
  • 経営強化税制
  • 経営者ネットワーク

と組み合わせています。(中小企業庁)

2026年の中小企業庁長官年頭所感では、すでに2,000者を超える企業が100億宣言を行ったとされています。さらに、令和7年度補正予算によって支援を抜本的に拡充・強化するとしています。(中小企業庁)

そして2026年7月の「日本成長戦略」では、100億企業創出について、

  • 成長投資支援の強化
  • 経営者ネットワークの全国展開
  • 成長志向企業の裾野を広げる新たなメカニズム

まで政策対象が広がっています。